清純な花の影に立ってみる
胸をふくらませた記憶が
まばゆい光のさざなみをとおって
風に香りをはなつ
小さなころにも
やっとひとりになれたな
と 木の下に立っていた すると
( そんなことはないよ ほら
花だってみんなで寄り添って
輝くからきれいなんだ )
という声が 何処かから聞こえた
桃色の花が きらっと動いた
おとなになったとき
同じ花の下に立つ
花はやっぱりひとりではなく
寄り添いあって揺れている
何気ない花のささやきが
ひとりだちするまえに聞いた
母の声にも似ている
そしてわたしは そっと気づいた
はじめて 母の手から 自分の幼い手を
そっとふりほどいて走った通学路
いつの日もこの花は
巣立つ日の静かな象徴
春がはこぶ やさしく そして
少し甘い記憶の花影で
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